
2026年3月3日、ひな祭りの夜に皆既月食が起こります。
月がゆっくりと地球の影に入り、やがて赤銅色に染まっていく幻想的な天体ショーです。
天体望遠鏡がなくても観察できるため、気軽に楽しめるのも魅力のひとつ。
夜空の美しさで知られる星取県(鳥取県)でも、この日、月食の観察イベントが予定されています。
ぜひ、足を運んでみてください。
県内で観察イベントを開催
今回の皆既月食は、日本全国で見やすい時間帯に起こります。
次に同じような条件で見られるのは数年後。
専門家の解説を聞きながら観察できる貴重な機会です。
【鳥取会場】宇宙ふしぎ探検「皆既月食を見よう」
【米子会場】天体観測会「皆既月食を見てみよう!」
| 日時 | 3月3日(火) 19時30分~20時30分 |
| 会場 | 米子市児童文化センター(MAP) |
| 料金 | 無料 |
| 定員 | 先着60名 ▶︎お申し込みはこちら |
| 主催 | 米子市児童文化センター |
※日本公開天文台協会では、当日、インターネットによるライブ配信を予定している全国の天文台を紹介しています。お住まいの地域で雲がかかって月が見えない場合は、ライブ配信による皆既月食をお楽しみください。
▶︎ライブ配信や観望会を予定している施設はこちら
竹内教授に聞く、月食の不思議
月食について深く知ることで、実際に月を見る楽しみも広がります。
なぜ月は赤くなるのでしょうか。
月食は満月の時に起きますが、なぜ毎回、月食は起きないのでしょうか。
見どころや観察のポイントについて、宇宙物理学がご専門の米子工業高等専門学校の竹内彰継教授にお話をうかがいました。
何時頃、どの方角で見えるのか?
ー2026年3月3日の月食は、何時頃、どの方角を見上げたらよいのでしょうか。
月食が見えるのは東南東の方角で、月食がはじまるのは18時50分頃です。
20時4分から21時3分まで皆既食(月が地球の影にすっぽり入る状態)がつづき、22時18分頃には月食が終わります。
竹内教授20時〜21時頃が、最も見ごたえのある時間です。


満月なのに欠ける理由
―そもそも「月食」はなぜ起きるのでしょうか。
また、月食が起きるのは必ず満月の時ですが、これはどういう理由からでしょうか?
月食とは、太陽の光が地球に当たってできる影の中に月が入る現象です。
したがって、月食が起きるのは、地球からみて月と太陽が真逆の位置にある時、つまり、満月の時ということになります。
この時、私たちが月面に降り立って地球を見たとすると、太陽は地球に隠されます。つまり、月面では「日食」を見ることができます。


《用語の説明》皆既月食と部分月食はどう違う?
皆既月食とは、月全体が地球の影にすっぽり入る月食のことをいいます。これに対して、部分月食は、地球が作り出す影に月が一部しか入らない月食を指します。
地球からみると、皆既月食では月全体が暗くなりますが、部分月食では、月全体がすべて暗くなることはありません。
「5度の傾き」がもたらす不思議
―満月は毎月のようにありますが、なぜ毎回月食が起きないのでしょうか?
月食は1年に1~3回程度しか起こりません。
これは、地球の公転軌道面に対し、月の軌道面が約5度、傾いており、満月の時に太陽・地球・月が常に一直線上に並ぶとは限らないからです。
3つの天体が一直線にならないと月食は起こりません。
―前回の皆既月食は2025年9月8日にありました。
次に皆既月食が起こるのは2029年1月1日とのことです。月食の周期が一定でないのはなぜでしょうか?
月食の頻度は年に1~3回程度といいましたが、これは地球上のどこかで起きている回数です。
月食が起きても、皆既月食になるとは限りません。
また、月食が起きても、夜でなければ見ることができません。
2026年8月28日に部分月食が起きますが、観測できるのは北米の東部や中南米地域です。日本では昼間の時間帯であるため、見ることができないのです。
赤く染まる月のひみつ
―月食を観察する際、どんなところに注目したらよいのでしょうか?
月食の注目点は、何と言っても月面の色です。
普段の月は白色に見えることが多いのですが、月食が始まると、月面は徐々に暗くなり、「赤銅色」と呼ばれる、暗い赤色へと変わっていきます。
興味深いのは、赤銅色は月食によって少しずつ変わることです。過去の月食では、明るくオレンジに近い色の時や、赤黒くてほとんど見えなかった時もありました。
そこでフランスの天文学者、アンドレ・ダンジョン(1890年-1967年)は、皆既食中の月面の色と明るさを分類するために「ダンジョンのスケール」と呼ばれる5段階の尺度を提案しました。
月食がどの段階に対応するのか観測してみると面白いと思います。
今回は日本全国で見やすい時間帯に月食が起きるので、絶好のチャンスです。


| スケール | 説明 |
| 0 | きわめて暗い。肉眼ではほとんど見えない。 |
| 1 | 暗い。灰色・褐色。表面模様の識別が困難。 |
| 2 | 暗赤色・錆色。本影付近かなり暗い。 |
| 3 | レンガ色。本影縁は明灰色・黄色 |
| 4 | 明るい。赤銅色・オレンジ色。本影・半影の境界域が青みがかかる。 |



観測した月の色がどの段階に近いか、ぜひ比べてみてください。
―なぜ、赤銅色になるのでしょうか。
また、日食の時には太陽は黒くなりますが、何が違うのでしょうか。
月が地球の影に入ってしまうので、月は完全に真っ暗になるように思えます。
しかし、地球には大気が存在します。地球に到達した太陽の光は地球の大気によって屈折し、地球の影の中に回り込んで入ってきます。その光によって、地球の影の中にある月が照らされるため、皆既食の最中の月が完全に真っ暗になることはないのです。
さらに、地球の大気には青い光(波長が短い光)ほど強く散乱する性質があります(空が青いのはこの性質の影響です)。そのため、赤い光(波長が長い光)ほど大気の中を効率的に通過するため、皆既食中の月面は赤銅色になるのです。
なお、日食が黒く見えるのは、太陽と重なった月の裏面を見ているからです。月の裏面を照らす光は極めて弱いので、日食は黒く見えるのです。
古代から続く月食の観測
―月食は誰でも楽しめる天体ショーですが、専門家である天文学者は月食のどういうところに注目するのでしょうか?
古代ギリシャのアリストテレスは、月食の観測を通じて「地球は球体である」と主張しました。
これは、月が地球の影に入る際、月面にかかる地球の影が円形に見えることが理由でした。
同じく古代ギリシャのアリスタルコスは、さらに進んで地球の影の大きさと月の大きさの比から、月の大きさは地球の3分の1であると結論付けました。
このように、天文学の黎明期において、月食は天体の大きさや暦の精度を向上させる目的で利用されました。
近年では、地球の大気をモニターするために月食観測が行われています。



月食は、何千年も前から人々の想像力をかき立ててきました。
火山の噴火が月を消す?
―具体的には、どのようなことが分かるのでしょうか。
例えば、大規模な火山噴火があった直後の皆既月食では、火山によって噴出された細かい塵や埃が地球大気全体に拡散するため、ダンジョン・スケールが0~2と非常に低くなる、つまり暗くなることが知られています。
20世紀最大級の噴火といわれるフィリピン・ルソン島のピナトゥボ火山の噴火(1991年)の直後の月食では、ダンジョン・スケールが0~1となりました。
ちなみに、この噴火により北半球の温度が0.5度低下した結果、1993年は冷夏となり、日本ではコメが不作になってタイ米を緊急輸入した「平成のコメ騒動」の原因ともなりました。



月食は、地球の“健康状態”を映す鏡のような存在です。
青い縁の発見「ターコイズフリンジ」
2000年代に入ると、月食観測で大きな発見がありました。
2008年、米航空宇宙局(NASA)は皆既月食の時、地球の影の縁が(赤色ではなく)青色になっていると報告し、その現象は「ターコイズフリンジ(トルコ石の縁)」と命名されました。
これは「皆既月食は赤銅色」という常識を覆す発見であり、当時、大変注目を集めました。
地球の成層圏(高度10~50kmに存在する大気の層)には、オゾン濃度が高い「オゾン層」があります。
オゾンは赤い色の光を吸収するため、オゾン層を通過した太陽光は赤色の成分を失い青色となり、その光が地球の影に侵入することで月面を照らし、ターコイズフリンジが生じるのです。


米子高専科学部では、2021年11月19日の月食の際に分光観測を行い、月面のスペクトルを撮像して、オゾンによる吸収によって実際にターコイズフリンジが生じていることを示しました。



月食は、今も新しい発見が続いている現象です。
《用語の説明》分光観測と分光器
分光観測とは、天体の光を波長(色)ごとに分けて、スペクトルを取得・分析する観測手法のこと。この観測を行うために用いる装置のことを分光器と呼びます。
未来へ広がる月食研究
オゾン層は紫外線から私たちを守ってくれているのですが、フロンガスがオゾン層を破壊するということが、20世紀末に分かりました。
その後、フロンガスの使用が禁止され、現在ではオゾン層は回復しつつあります。
米子高専科学部は、観測データを過去の月食の分光観測と比較することにより、オゾンの量が有意に増えていることを見出しました。
スペクトル観測は分光器があれば、誰でもできる簡単な観測です。
2022年度から高校で「探究学習」が必修化されました。全国の高校の皆さんには、ぜひ探究学習で挑戦していただきたいテーマです。



月食観測は、未来の研究者を育てるきっかけにもなっています。
竹内教授のプロフィール


竹内 彰継(たけうち あきつぐ)
1989年、京都大学理学研究科博士課程(宇宙物理学専攻)中退、米子工業高等専門学校に着任。1993年博士号(理学)を取得し、2007年から教授。
科学部の生徒による新型分光器「TORIHIME」の設計・製作(2023年)を指導し、2024年5月ロサンゼルスで開催された国際学生科学技術フェアの物理学・天文学分野で優秀賞4等受賞に導いた。
2025年10月には『天体スペクトルの教科書~高校生の探究活動から高度な研究へ』を刊行(共著)するなど、天文学の普及に力を入れている。
ひな祭りの夜、空を見上げてみませんか
3月3日の皆既月食は、日本全国で観察しやすい時間帯に起こります。
当日は県内でも観察イベントが開催されますので、ぜひ空を見上げてみてください。









-R8いちごスタンプラリーチラシ_page-0001-212x300.jpg)


