以前、鳥取にテレワーク移住した体験談をお伝えしましたが、多くの反響をいただき、地方移住と、その課題の一つである仕事への注目の高さを改めて実感しました。
働き方も多様化している中で、今回は、鳥取へ来て、農業をしながら司会業という複業を持つ古谷葉子さんに、移住のこと、複業のこと、色々伺ってきました。
みどりの風が吹く山林のまち 鳥取県八頭郡智頭町で、「ちづの農家 旬菜屋」を営む古谷さんご夫婦。
智頭町での暮らしや、農業のリアルについて、ご夫婦でインタビューに答えてくださいましたので、ご紹介していきます。
結婚するために鳥取に移住
プロフィール
古谷葉子さん(以下 葉子さん)は、京都府綾部市出身。高校卒業後、食べ物を作ることに興味があり、たまたま地元にあった農業大学校へ進学、20歳まで綾部で過ごされました。
その後は農業からしばらく離れて、京都府北部にあるスポーツクラブで、インストラクターとして約10年間お仕事をされていました。スポーツクラブでは、子どもの頃からやっていたクラシックバレエの経験が活かされ、楽しかったとおっしゃいます。
30歳を過ぎた頃、司会の仕事がやりたい、という思いから大阪へ。司会とインストラクターの仕事を両立、このときすでに複業をされていました!
司会の仕事をやりたいと思われたのは、スポーツクラブでのお仕事がきっかけだったそうです。
葉子さん:スポーツクラブの仕事は対面で、うまく伝えると、お客さんも上手に泳げたり、踊ったりできるんです。
司会業を学んだ場所は、ブライダル業界。
司会者を養成する事務所に入り、披露宴での司会でプロデビュー。
ブライダルやホテルの方の目線で、おもてなしやホスピタリティーについて、多くのことを学ばれました。
〜移住のきっかけ〜
いよいよ鳥取への移住が近づいてくるその前に、京都のスポーツクラブで働いていた頃に遡ると…
スポーツクラブの近くにあるワイナリーに就職していた現在の夫であり、「ちづの農家 旬菜屋」の園主である古谷浩平さん(以下 浩平さん)と出会われます。
浩平さんは、大阪出身。鳥取大学農学部を卒業後、近畿の北部でサラリーマンとして10年勤め、2011年、農業研修で単身智頭町へ。
京都のスポーツクラブ時代から連絡を取り合っていたお二人は、2014年にご結婚され、冒頭の言葉通り、葉子さんは鳥取へ移住されました。
しかしながら、葉子さんとしては移住という意識はなく、これまでも京都や大阪の中でも引越しをしたり、転職したり、鳥取はその引越しの延長線上にあり、「鳥取に住んでいる浩平さんのところへ行きます」というのが、葉子さんにとっての移住のリアルのようです。
徒歩10分圏内にある暮らし
浩平さんは、農業を始めるきっかけになった師匠が、ぶどう農家であったこともあり、ぶどうを作ることを決めて、場所探しをされていました。また、ぶどう栽培については、大学でも学んでおられ、その長い経験が活かされることも一つの理由だったようです。
智頭町を選ばれた理由は、ぶどうを栽培する地域としての条件が整っていたから。
浩平さん:農業が盛んで有名な地域はたくさんある。盛んな地域は、ブランド力などの保証はあるが、自分のやりたいことができないかもしれない。智頭は、そういう意味で自由だと思った。
また水が豊富で山に近く、寒暖差もあり、山間地の方がいいものができるのではないかと考えたから、智頭に決めた。
1年間の研修を終え、2012年就農。
浩平さんが植えたぶどうの苗が芽を出した年に、葉子さんは鳥取県民となり、今年で8年目。
智頭町の魅力
智頭の魅力を葉子さんはこうお話されます。
葉子さん:徒歩10分圏内に、病院・学校・スーパー・駅・警察全てがある、という便利さがかつてない。もちろん畑も徒歩10分圏内!
さらに智頭町は、県庁所在地である鳥取市の隣に位置していて、車で30分の距離。
都会にいたときの何不自由ない生活とは違う、今までにない便利な暮らしを感じていらっしゃるようでした。
これは智頭町の中でも、葉子さんたちが住んでおられる場所の話ではありますが、智頭という良いところを(浩平さんは)選んでくれた!と、葉子さんは続けておっしゃいます。
葉子さん:車がなくても、最低限、智頭の中で何でも揃い、少し車を走らせれば、海もあり、温泉も近い。言い過ぎかもしれないけれど(笑)、暮らしの便利さは最高。
また、緑が一面に広がり、原風景の残る智頭町の山村の景色は、子どもの頃に過ごした綾部にも似ているそうです。
子どもの頃、近畿地方の天気予報には鳥取もあり、「山陰沖及び若狭湾」というワードを毎日当たり前のように聞き、気候も似ていて、綾部は山陰だと思って暮らしていたほど。
そんな葉子さんだから、先にも書いたように、これまでの引越しの延長線上で来た鳥取で、移住者という気持ちはなく、周りから移住者であることを知らされた(笑)とおっしゃいます。
葉子さん:移住者として大切にされることは、とてもありがたいと思う反面、ちょっとさみしい…いつまでもよそから来た人なのかなと。
今は、その土地の人に私はなれるか!?というのが人生のテーマなのだと、笑いながらお話してくださいました。
農業と、鳥取で司会業の仕事に出会うまで
葉子さんは、高校卒業後の進路を考えたとき、「将来食料危機が来たら、作る側にいたい」という思いから、地元の農業大学校に進学され、農業を学ばれていました。卒業後、新卒で農業法人に就職。その後、しばらくは農業から離れておられましたが、結婚後、再び農業の世界へ。
鳥取に来てからの最初の仕事は、夫である浩平さんの農業のお手伝いが主なものでした。
そして農業の仕事を通じて、県の職員さんと出会い、司会業の経験があったことから、地元のイベントが初仕事となり、その後、成人式や披露宴の司会のお仕事へとつながっていったそうです。
そして2020年1月、ご友人の紹介で、FM鳥取のお昼の番組にゲストとして出演されたことが、さらなる転機となります。
葉子さん:進行役の方々のトークと、とにかく楽しいその場の雰囲気に感激しました!!
当時、司会の勉強をもう一度したいと、鳥取でスクールを探していたという葉子さん。
ラジオ収録の後、ラジオ局のロジャーさんから「ニュース原稿とか読んでみたら」と言われますが、農業をしていることや、経験がないことから、一度は断られたそうです。
そんな葉子さんの背中を押したのは、一緒に農業をしている浩平さんでした。
そこで、FM鳥取のスタッフであり、ラジオパーソナリティーの山下弥生さんに連絡。「アナウンスを教えてください」とお願いしたところ、FM鳥取でインターンができることになりました。
その頃、新型コロナウイルス感染症が広がり始め、これまでのイベントや披露宴の仕事は減っていたこともあり、農業をしながら、インターン生として週2〜3度、FM鳥取のある鳥取市に通う生活が始まりました。
リモートでラジオのお仕事
2020年4月〜5月、全国的に「緊急事態宣言」が発出される中、少しずつ研修を進め、6月にラジオデビューが決まります。
毎週月曜日に朝の番組を担当し、しばらくは智頭から市内へ通う生活が続いていました。
そして、新型コロナウイルス感染症の状況が変わらない中、迎えた2020年の秋。
9月〜10月に、智頭のご自宅でぶどう販売する古谷さんご夫婦にとって、いちばん忙しい時期です。
その頃、他の曜日のラジオMCの方がリモート出演されていたこともあり、葉子さんも9月からラジオの仕事をリモートに切り替えます。以降、現在も、智頭からリモートで出演されています。
農業と司会業 複業のメリット・デメリット
メリット①農業×司会業で生まれる相乗効果
農業と、司会業という話す仕事は全く違うようですが、実はどちらにも良い影響があるとおっしゃる葉子さん。
葉子さん:例えば、ぶどうは対面販売なので、「声が聞きやすい」や「電話応対が良い」と言ってもらえる。そのことが自信につながっています。
また、「農業をしている人だけど、ラジオをやってる」というところで、周りの人から面白がってもらえて話題にもなるそうです。
メリット②メリハリがつく
とにかく時間の使い方を考えて行動するので、やるべきことややりたいことをして、1日を過ごすことができるとおっしゃいます。
また、リモートでできるラジオの仕事の場合、繁忙期には農業に多く時間が使えるので、ありがたいとも。
デメリット①スケジュール管理
メリットでもあるメリハリのついた時間の使い方は、同時に注意点にもなるようです。
ラジオの仕事は、朝4時に起き、9時までリモート出演。農業は、ご夫婦で分業されているので、例えば、夏場などは朝の涼しい時間に畑に出る方が良いけれど、その分、浩平さんに負担がかかってしまいます。そういう面で、特にスケジュールをよく管理して、農業と向き合うよう心がけていらっしゃいます。
浩平さん:家族でやっていると、仕事と割り切れないことも出てくる。家の仕事と外の仕事を区別しないよう、夫婦でもお互いにけじめをつけないといけない。
デメリット②忙しさにムラが出る
農業には、繁忙期と閑散期がありますが、繁忙期は家を空ける仕事ができません。先にも書いたように、リモートで携われるラジオの仕事の場合は良いですが、時として、場所に縛られることもある司会業は難しい一面も。
また、新型コロナウイルス感染症の状況や、時期によって、仕事量にムラが出るとのことです。
智頭で農業、これからの課題
「農業」という目的を持って、鳥取に来られた浩平さん。
途中から参加した葉子さんは、農業をすることや、今の暮らしをどのように感じていらっしゃるのでしょうか。
葉子さん:食べることが好きなので、その食べものを土から作るのは、驚きと楽しさでいっぱい。ぶどうや野菜を通じて、地域の人とつながることができ、同時に仲間の作った新鮮なものが食べられる。
四季を感じながら、「ここで生きている」ということを実感される毎日。
もちろん大変なこともあり、その一つが体調管理。働けないと食べていけない、ということをひしひしと感じるときもあるとおっしゃいます。
そのような意味では、複業があるというのは、安心感につながっているそうです。
また、農業にとって、司会業は強みにもなっています。そのことをどう活かしていくかが、葉子さんのこれからの課題なのだそうです。
葉子さん:農業は、「長靴を履いて、麦わら帽子を被って、もんぺ履いて、鍬をふるう」だけじゃない。別のことをしながら農業を楽しめる、そういう良いイメージにしたい。
農業×◯◯、葉子さんの場合は、「ラジオをやっている人が農業もやっている」という、ただ農業をするだけではなく、面白がってもらえる自分たちの農業の形を目指していらっしゃいます。
複業に対しての農業は可能なのか
コロナ禍で、農業を複業でやってみたいというニーズが高まってきている今、農業が本業である浩平さんに、「農業」について伺ってみました。
浩平さん:家庭菜園や、お米だけを作るなどの「農的暮らし」という意味で、複業は可能なんじゃないかと。
こうおっしゃるのは、浩平さんが、10年間農業をする中で感じられたことがあるからです。例えば農地の管理。水路一つとっても、自分の一区画だけでは完結しない、チームプレーが重要だということ。それは、農業から見ると必然なのですが、その周辺の人にとっては、古いしきたりと思われることも。
浩平さん:みんなで保っているところの一区画を自分はやっているという認識。これが持てる人はいいのかな。
ただ、お米や野菜を作って分け合ったり、直売所などで安く売ったりするのはいいけれど、あまりやると、それで生計を立てている人はどうなるのか?
浩平さんは、これらから生じる農業の世界にある複雑な事情も感じておられます。
…買う側だけが得をすると、農業者は減っていく。
正規品と規格外の価格を分けること一つとっても、難しい問題を抱えています。
農業をする価値とは
さらに別の観点で、農業をすることの価値についてお話してくださいました。
おじいちゃんおばあちゃんたちが当たり前のように守ってきた農地は、みんなが使う水を作り、川の中をきれいし、海へと流れていきます。
山林や農地の維持こそSDGsであり、そんな当たり前のことをやっている鳥取は、世界に誇れる県だと浩平さんはおっしゃいます。
浩平さん:自分で作った野菜はおいしいだけではなく、水まできれいにしてくれて、世の中の役に立っている。農地として使うことは、そういう価値を担っているんだと思ってほしい。
それらを踏まえた上で、全体的な視野と、農地をはじめとする農業に興味を持ち、チャレンジしてくれる人が増えるのは、念願なのだそうです。
以上です。
美しい自然に囲まれた智頭町で、丁寧で豊かな暮らしをされている古谷さんご夫婦。
やりがいを持ち、農業を楽しみながら、これからもいろんなことに挑戦していくお二人の姿は、今後の新しい働き方のモデルケースにもなるのではないでしょうか?
地方移住や、複業、農業について考えていらっしゃる方へ、少しでも参考になれば幸いです。
筆者も、今度は家族を連れて、20種類以上の品種が育つお二人のぶどう農園に行ってみようと、今から秋が待ち遠しいです。
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