こんにちは。子育てママライターのいずみです。
子育てに関する悩みを抱えていても、どんな支援があるのか分からない、どこに相談したらいいのか分からない、という若いお母さんが多いのではないでしょうか。
1人で抱え込み、精神的にも肉体的にも追い詰められてしまうと、自分の子どもを虐待してしまうかもしれません。
それを防ぐために重要なのは、お母さんが自身がゆとりをもつこと。
家庭に居ることが難しい子どものための居場所を作り、お母さんを育児に関わるストレスから開放することを目的とした包括的支援施設、鳥取こども学園の田中佳代子園長にお話を伺いました。
救済事業として始まった養護施設
鳥取こども学園は、明治39年に戦災孤児救済事業のための私立の孤児院として運営が始まりました。
その後育児院、後に養護施設として発展。子どもを守るための法律である児童福祉法がまだ制定されていない時代から、家庭で養育できない子どもたちを家庭に代わって養育・支援するための様々な取り組みがなされてきました。
現在は両親の居ないお子さんはあまりなく、保護者や家庭の様々な事情により、家庭で養育することが難しい子どもたちを受け入れています。
法人の特徴としては、11もの子どもの専門施設が1つの法人によって運営されていること。このような例は鳥取県にしかないのだそうです。
中心となっているのは児童養護施設「鳥取こども学園」と、乳児院「鳥取こども学園乳児部」、児童心理治療施設「鳥取こども学園希望館」です。
その他にも、
★子ども達やそのご家族に関する様々な相談を受ける「子ども家庭支援センター 希望館
★保育所「鳥取みどり園」
★子どもの心の専門(児童精神科)診療所「こころの発達クリニック」
★ニート、ひきこもりなど働くことで悩んでいる若者の就業までをお手伝いする「地域若者サポートステーション事業」
★最長で22歳まで居住し、社会自立のための支援を行う「自立援助ホーム」
など、1人の人が大人になっていくまでの人生のすべてに寄り添える機能が整っています。
この形態は現在国のモデルケースにもなっていて、各県の児童養護施設等から研修や見学を受け入れるなど鳥取発の新しい子育て支援の形を展開しています。
何故ここまで多様な業態に発展したのでしょうか?という問いに対して、理事長である藤野興一先生が子どもたちのために心血を注いで行動した結果、というお答えをいただきました。
当初あった養護施設は80人規模の入所施設。しかし、そこに不登校になってしまった子どもがやってきたり、強迫神経症の子どもが入ってくるなど、これまで以上に繊細な心のケアが必要な子どもが多いという現状に直面。
そこで、心のケアーがより手厚く行える、児童心理治療施設「鳥取こども学園 希望館」を併設し、相談業務も行いました。電話相談では、年間2000件もの相談が殺到しました。
そこでさらに電話相談だけを独立させ、「子ども家庭支援センター 希望館」を作ったのです。
こうしてひとつのニーズが新たなニーズを見つけるきっかけになり、それを繰り返していくうちに、現在の11事業が作られていったのです。
親とのかかわりを助ける施設
現在施設で生活している子どもたちは、ご家族が病気であったり、生活が厳しかったりなど様々な理由があるそうです。
こども学園を家庭として日々を過ごす子どももいれば、一定期間(一時保護・ショートステイなど)短期滞在する方法は保護者側の事情によって様々です。
かつては施設に入所すると、18歳まで、あるいは中学校を卒業する15歳で社会に出ていました。ご家族とも疎遠になりがちな時代もあったそうです。
でも大切なのは「親に愛された」ということを実感して育っていくこと。そのために、家庭との連携を密にして、可能ならば家庭に戻し、完全に家庭復帰が困難なら週末だけなど、親と子どもの時間を多く取れるように柔軟な支援がなされています。
児童養護施設ってどんなところ?
子どもたちが生活する建物はホームと呼ばれています。本園としての鳥取こども学園の定員が40名で6ホーム、そのほか、地域に小規模児童養護施設として定員6名の住宅が3ヶ所あります。
地域にあるホームの場合、子どもたちはより家庭に近い環境で過ごすことが出来ます。ゴミだしのルールを学んだりの近所付き合いを経験したり、買い物に出かけて台所で料理をしたものを食べたりするよりあたり前の生活を行っています。
本園だと食事も配膳式、ゴミも毎日業者が回収してくれますが、家庭に帰るとそうではありませんよね。施設と地域のギャップを埋めるために小規模施設があるのです。
“息抜き”のための一時利用
また、子育ての一時的な休憩として、ショートステイ(短期預かり)を利用できます。
保護者の病気や出産、家族の看護、冠婚葬祭、事故、出張などで、一時的に家族で養育ができないとき、当センター併設の児童養護施設、乳児院で市町村を窓口にして最長1週間程度お子さんを預かります。利用料金は、子どもの年齢・所得に応じて、1日あたり無料~ 6,000 円程度です。
(鳥取市・八頭町からの委託事業)参考:https://www.tottorikodomogakuen.or.jp/shisetsu/p_kodomo_sien/
短期利用は市町村からの委託事業として運営されていて、利用を希望したい方は例えば鳥取市の場合は、まず市の窓口である「子ども家庭発達支援センター」に申請をします。
そこからこども学園に対して日程の調整などが行われ、受け入れ可能な場合は、もう一度市から家庭に通達されます。
一時保護等短期利用施設専用のホームのある施設はまだまだ全国的に珍しいそうです。他の施設では入所児童と同じホームに短期間利用の子どもを預かるので、生活の空気が一変し、それまで安定していた子どもたちの心が不安定になるリスクがあるのだとか。
ショートステイの利用料は家庭が半分、市がもう半分を負担。家庭の状況や年齢によって変わりますが、乳児の場合は1日が5500円ほどで、母子家庭や生活保護家庭では無料になっています。
頑張りすぎるお母さんほど陥ってしまう虐待のリスク
「今は核家族化が進んでしまい、お母さんが1人で育児する家庭が多くなっている。そうなると休憩が出来なくなって、子育てのストレスがたまってしまう。頑張りすぎるお母さんほどストレスを溜めやすく、虐待を起こしやすい」
と田中園長は言われます。そうなるくらいなら利用できる施設を使って、休憩を取りながら行うのも子育ての1つであると。
虐待を受けた子どもは自分を肯定することが出来ません。自分には愛される価値がないと思いながら大きくなってしまいます。
そうではない。「私は人に愛されるべき人間なんだ」という心を失わないためには、1人でもいいので辛いときに泣きつくことが出来る存在が必要です。
自分のことを心配してくれる人がいる、いざというときに逃げ込める安全な場所(人)があると思って育った子どもは、将来困難なことがあっても立ち向かう力を持つことが出来るのだそうです。
お母さんがその存在になれることが理想です。ストレスを溜めすぎないよう、場合によっては3週間に1回など、定期的な利用をしてもらうように働きかけています。
子どもという存在は親の心にとても敏感で、小さな子ほどお母さんが不安だと自分も不安になってしまいます。お母さんの心にゆとりを作ることこそが、子どもの安定した人格をはぐくむために必要なのです。
「一番伝えたいのは、子どもはかわいいだけじゃない、子育ては本当に大変だということ。かわいくないと思うことも育児」
自分の子どもをかわいくないと感じることにプレッシャーを感じるお母さんは多いのです。それは恥ずかしいことだと。親失格だから、人には話せない。だから相談の電話も掛けられない。子育てに関して人に相談を行うことは恥ずかしいことではありません。もっと気軽に電話相談が出来る世の中にしなくては。そのために施設があるのだから。
出来るだけ気軽に利用してもらって、「子どもにとってのいい育児をしてもらうこと」が鳥取こども学園の意義なのだと言われました。
「家庭が壊れる時代」のための新しい施設支援
理事長藤野先生のお考えに、「地域の家庭が壊れている時代に入っている」というものがあるのだそうです。
「施設だけが頑張る時代はもう終わり。いかに連携出来る関係機関を持っているかが重要」
福祉とは縦割り行政ではなくて、横のつながりが重要です。場合によっては福祉事務所や病院、市の生活保護課、障害者雇用の担当課などとも連絡を取り合って、電話をかければ迅速に必要な機関が動いてくれるようにいつでも繋がっていることが、今後の子育て支援には欠かせないのだそうです。
現在これだけの包括的な設備がありますが、今後目標とされることはなんですか?とお伺いしたところ、「養育を行う職員の養成校を鳥取大学や鳥取短期大学などと提携して作っていくこと」というビジョンを理事長先生は考えていると教えていただきました。
現在全国に600ほどある児童養護施設の半数以上が、大規模な入所型施設、いわゆる寮のような環境で、家庭の雰囲気に乏しいのだそうです。
そうした施設は子どもを養育するというより、「管理」「指導」するというスタンスが取られがちです。ですが今後の方針として、より小規模で地域に根ざした家庭的な施設への建て替えが奨励されています。
小規模施設で子どもとの距離が近くなったとき、大規模施設の経験しかない職員は何をどうしたらいいのか分からない。子どもとどう接していいのか分からない。そこで、全国の施設職員の方が鳥取に来て子どもたちと生活するノウハウを学び、自分の地域で生かすというのが夢なのだと伺いました。
さらに、これからの子育て支援には、従来のような虐待のケアだけでなく「虐待予防」が必要。
そのために施設は受け入れだけを行うのではなく、虐待に陥ってしまいそうなお母さんに対して息抜きのために定期的に子どもを預けるよう促したり、壊れてしまった家庭に対して「家庭とはこういうものだ」とモデルを示すことを目指します。
最近の取り組みとしては、子どもたちの居場所作りのために始まった子ども食堂。現在は月1回だけですが、最終的な目標は学習指導も行えるスペース作りとのことでした。
「鳥取こども学園なら何とかなる」という安心感
児童養護施設と保育所から発展した鳥取こども学園ですが、子どもたちと生活していくうちに様々な専門施設の必要性が浮き彫りになっていきました。
そのつど電話相談を始めたり、心のケアを始めたり、不登校の支援を行ったり、社会に出た子どもたちのフォローの場所を作ったり、ニートや引きこもりの問題に向き合ったり、里親支援を行ったり。
どうすれば子どもが安心して過ごせる環境を作ることが出来るのか、自己肯定感の高い子どもを育てることが出来るのかを追求し続けて現在の業態が形作られていきました。
お話を伺って、今後子育てをしていく上で、子どもに何かがあっても鳥取こども学園に相談すれば何とかなる、そんな安心感を得ることができました。
逆に言うとこの場所の存在を知らないお母さんは、とても不安な子育てをしているのではないか、という疑問も浮かびました。
今後施設は、県内の施設出身者だけでなく県外の施設出身者、地域で子育てに悩んでいる人の支援を目指していくのだそうです。人生を丸抱えにする。行き場のない孤独な人を無くす。
そのために、鳥取子ども学園の出身者でお亡くなりになられた方々のお墓も設置されています。
まさに人生のすべてを預けることが安心な施設でした。いえ、施設というのではなく、新しい時代の新しい家庭の形になっていくのでしょう。
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