鳥取県内で、移住地として人気の高い鳥取市鹿野町。
昔ながらのまちなみと田舎の風景、古くからある建物や空間をただ残しているだけではなく、そこに関わる人達の「面白いまちにしよう」という思いが地域外にも伝わり、多くの移住者や、鹿野に住まなくてもまちづくりに関わりたいという方も増えていっているようです。
今回、いんしゅう鹿野まちづくり協議会の編集で出版された「地域の未来を変える空き家活用」を元に、理事長の佐々木千代子さんと、編集に関わられた高木章子さんに、出版の経緯などインタビューしました。
佐々木千代子さんへインタビュー
地域で大切な多様性を受け入れるということ
地域活動のきっかけを教えてもらえますか?
もともと、私の社会活動の根底にあるのは子育てです。
きっかけは、親になり、PTAの活動に参加したときに、自分の子どもだけを見るのではなく、よその子どもも見ていかないと上手くいかないと感じるようになったことでした。最初は、子どもたちに楽しい思い出を作りたくて、地域で新しい企画をしていきました。
それから、あぁだったらいいのになぁ〜と思う事や、地域で気がついたことをどんどんやっていくようになっていました。
あれこれやっているうちに、誰かが何かを踏み出すときに、数人ででも応援することで、何か変わっていくことができるということに気がつきました。
それから、地域で誰でも気づいた人が行動できるような、また空気を読まずに発言できるような、そんな場所作りをしてきたと思います。いろんな人が受け入れられる。それが外から来た人にとっても居心地のいい場所につながっていると考えています。
記録から新しいコミュニケーション
本の発行の経緯を教えてもらえますか?
今まで、いんしゅう鹿野まちづくり協議会や関係する地域の方も、大変多くの活動を行ってきました。例えば、空き家の賃貸や、空き家を活用したイベント、虚無僧行脚や蓮ウォークなど。
ただ、今では当たり前になっている活動がなぜ行われるようになったのか、今ある施設がどのような経緯で作られたのかがわかるような記録が残っていない状態でした。
また数年前に、鹿野のまちづくりの活動を積極的に行ってきた方が亡くなられたことも、大きかったです。誰がいつ、いなくなるかもわからない、そのときに後の人たちにバトンを渡せるようにしておくことができればと考えました。
今回、50名を超える執筆者がいます。いろんな人の思い出がありますが、その人なりの角度で記録できたらいいなぁと思いました。
思いに賛同する人が3人いればなんとかなる。
どんな人に読んでもらいたいですか?
鹿野に興味がある方はもちろん、地域づくりに関心をお持ちの方や、地域の問題に頭を悩ませている方々に読んでほしいです。
特に、今、地域にあるものをどうやって使うかを参考に見ていただければと思います。
また、これから何かやりたいと思っている方には、自分が動けば何かが変わることを実感してほしいと思いますし、そういう事を伝えたい。
何かもやもやしている人に、とりあえず読んでもらって、とりあえず動いてみようという気持ちになってほしいと願っています。
先にもお話したように、何かを始めるときに、数人でも応援してくれる人がいると、変わっていくことができます。何か挑戦しようとしている人には、「思いに賛同する人が3人いればなんとかなる」と、よく言っています(笑)
子どもたちが帰ってきたくなるまちづくり
編集はいかがでしたか?
本の編集が初めてで、途中の過程も大変おもしろかったです。
最初は150ページの話でしたが、段々と企画が膨らんでいき、200ページぐらいの内容になりました。
途中まで企画にはなかったけれど、今の子どもたちはどう思っているのだろう?という話から、地域の学校に協力していただき、子どもたちにも未来の鹿野に望むことを書いてもらいました。
いつか子どもたちが振り返ったときに、参考にしてもらえればと思っています。
発行部数も、最初の計画では「抑えて発行しましょう」という話でしたが、結果的に、大変おもしろい内容に仕上がったので、「もっと多く発行しましょう!」という話になり、当初の計画より大幅に増やした発行部数になりました。
高木章子さんへインタビュー
鹿野に関わるきっかけについて
鹿野や今回の編集に関わるきっかけを教えてください。
5年前に鳥取市が移住者と移住希望者のための相談窓口「鳥取市移住交流情報ガーデン」を設立したときに、立ち上げメンバーとして関わりました。それまで、移住者の会の運営にも関わっていたので、移住の先進地としての鹿野のことはよく知っていました。
ちょうどそのころ、県東部の民間の移住支援団体が集まって「因幡移住支援ミーティング」という集まりを小林さんが中心となって始められ、私もその会に参加させていただくようになりました。そこには行政の担当者も自主的に参加されていましたが、小林さんたちの民間主導で行政へ食い込んでいくパワーに触れて、たくさん勉強させていただきました。
今回の編集に関わるようになったのは、小林さんの、人を活かして使う、使い方上手の術中にはまってしまったということです。
編集の仕事は、東京、大阪にいたころ、生物学の先端の研究をいろいろな媒体を使って表現し伝えるという仕事をしていて、雑誌の編集もしていました。 そういう話を小林さんが小耳にはさんだ結果です。
編集を通じて鹿野についてどう思いましたか?
最初は、移住促進という視点からしか鹿野を見ていなかったのです。鳥取市のなかでも、鹿野は最先端をいく移住の先進地域でした。鹿野に移住者が集まり、週末だけのまちのみせなど今までなかったような面白い企画をしたり、独自の空き家バンクを設けたり、東京で単独の移住相談会を開催したり、すごいなあと思うばかりで、私の中で鹿野は移住のメッカでした。
次々と新しい試みをされる。その力はどこから湧いてくるのだろうと、ずーっと不思議でした。その謎が、今回「まちづくり20年の軌跡」に触れることによって、解けたのです。
移住促進というのは、鹿野のまちづくりの活動のなかの一側面であって、鹿野の人たちの地域を良くしたいという深い思いと長い時間をかけた地道な実践があるのだということを知ったのです。
編集をしていく過程で、鹿野のみなさんの原稿を読むわけですが、随所に珠玉の言葉が溢れていて、感動しました。この人たちがこのまちを紡いで来られたのだと。
「記録には残っていないが、確かにあった人々の暮らしの歴史」「まち協の本来の活動はまちなみを守ること」「いにしえの時代からよくぞ今日まで続けてきたこの思いを次につなげたい」「いつも見守り、そばにいてくれるその温かさや安心感があるから人は力強くぜんしんできる。それがまちづくりのハートだと大石さんから私たちは学んだ」「鹿野はいつもきれいだねと言われる。人々がまちを大切にしているからである」「時代の流れでかわっていくこともうけいれなくてはならない」等々。
それから、建物などの名前がとてもいいですね。「サラベル」 「しかのこころ」「ノマドスペース「シカノマド」」「ゆめ本陣」など。地域の人たちが楽しんで活動されていることがよくわかります。
かなり多くの方が関わり、編集は大変ではなかったですか?
メールやZoomを使うことができ、ずいぶん助かりましたが、なるべく鹿野に行き、鹿野の雰囲気に触れ、リアルに人と話すようにしていました。
編集会議では、千代子さん、小林さん、澤田さん、五島さん、村上さん、岡田さん、向井さんが顔を合わせて方向性を決めていくのですが、その中で貴重な生のお話を聞くことができました。
編集作業に関しては、事務局の小林さん、向井さんとの連携によって、おかげさまでスムーズに進めることができたのだと思います。内容に関しては小林さん、細部の調整は向井さん、ナカニシヤの米谷さんにはZoomでの的確なアドバイスをいただきました。
鹿野町内の方、鹿野に関わる町外の方、大勢の方に原稿依頼したのですが、早い段階で、どんどん原稿が返って来たのには驚きました。みなさんの「書きたい」という気持ちが伝わってきました。
原稿を一つひとつ読んでいきながら、面白くてしょうがなかったですね。編集会議でのみなさんのお話や、実際に原稿を読むようになって、それまで鹿野の表面しか知らなかったことに気づきました。一人ひとりの思いを大事にし、記憶をつなぐ本にしたいと思いました。
改めて鹿野の魅力を教えてください。
今、時代の先端を行く鹿野まちづくり協議会の活動の出発点が、子どもたちのクリスマス会や節分だったというのには、とても驚きました。子どもたちの未来を考えて今の活動がある、だからぶれることがない。鹿野では、そこかしこで、いろんな世代の人たちがそれぞれ集まっては語り合っておられるという印象があります。
それぞれ自分たちがやりたいことをやっているのだけれど、地域の未来をよくしたいという思いで有機的につながっている。
町のサイズも住民が「自分の町」という意識がもてるちょうどいいサイズなのかなと思います。行政と民間の垣根も低く、一緒に活動するのが当たり前という空気を感じます。
この町に生まれ育った子どもも、そして大人も幸せだな、と思いました。どの世代の人にとっても常に今が「青春」と言えるのじゃないかと。人がワクワクと楽しそう。それが鹿野の何よりの魅力ですね。
そして、あとがきで小林さんも書いておられるように、町の人が新しい人を受け入れ、常に変わっていこうとしていること。古い伝統を大切にしながら、変わることを恐れない。だからまた新しい人が集まり、新しい動きが生まれている。
まちづくり20年のたくさんの人たちの営みがギュッと詰まったこの本は、鹿野というここにしかない町の物語でありながら、同時に未来を変えようとする全国の地域の普遍的な姿でもあると思います。
そして、この本が内向きの回顧本にとどまらないのは、鹿野が常に外に窓を開き、県外の地域づくり先進地と切磋琢磨し、空き家活用の新しい仕組みづくりなどの挑戦をしてきたことを、学術的調査結果や客観的で多様な視座からも検証している点である。
というわけで、ぜひこの本を手に取って、どこからでもいいので読んでほしいです。未来を変えるヒントがきっと見つかると思います!
本の概要
いんしゅう鹿野まちづくり協議会について
・いんしゅう鹿野まちづくり協議会
https://www.shikano.org/
鳥取市鹿野町は鳥取市西部に位置し「鹿野祭りの似合う和風の街なみ」をテーマに、行政と住民が景観まちづくりに取り組んできました。地域の取り組みに呼応し、2001年に「いんしゅう鹿野まちづくり協議会」を設立。2003年にはNPO法人格を取得しています。
いんしゅう鹿野まちづくり協議会は、子どもたちが住み続けたいと思える地域とすることを目指し、空き家活用、景観演出、賑わいづくり、フォーラム開催、耕作放棄地対策など、地域資源を活かした魅力ある地域づくりに取り組んできました。移住定住支援により、最近7年間で若者を中心に100人を超える移住者を受け入れ、移住者や地域の若者が連携し取り組むイベントや芸術祭も生まれ、少しずつ地域に変化をもたらしています。
本の推薦
空き家を活用して、地域に賑わいを創るには?
まちづくり、地域づくりの真髄がここにある
「鹿野には何もない」から始まり、「鹿野と言えば空き家活用の先進地」と言われるようになった鳥取市鹿野町の20年に及ぶまちづくりの歩み、空き家を活用し、移住者を受け入れる先進的な取り組みをさまざまな成功・失敗例も包み隠さず、数多くの関係者たちの声を交えながら一挙に紹介
長野県小布施町前町長 市村良三 推薦!
古くからある建物や空間を単に保存するのではなく、有効に楽しく使う。そして内外の人々がそこに集う。これこそが「まちづくり」の真髄だろう。
株式会社石見銀山生活文化研究所所長 松場登美 推薦!
鹿野町には、伺うたびに発見がありました。その土地に根付いている文化を上手に活かし、その土地ならではの魅力にされていることに感銘を受けました。
本の概要
●定価
全ページカラー 本体2,200円+税
●購入可能場所
書籍は各書店およびナカニシヤ出版、amazon、鹿野町内のお店などで手にとっていただけます。
鳥取県内の販売書店は下記の通りです。
<東部>
今井書店 湖山店
今井書店 吉成店
横山書店
下山書店
定有堂書店
ブックセンターコスモ 吉方店
<中部>
倉吉今井書店
今井書店 パープルタウン店
今井書店 アプト店
朝倉書店
<西部>
本の学校 今井ブックセンター
今井書店 錦町店
今井書店 境港店
杉島書店
本条書店
インタビューを終えて
私自身、東京から鹿野町に移住してきて、
いんしゅう鹿野まちづくり協議会を通じて、空き家を借りて鹿野で4年ほど暮らしています。
鹿野の地域活動の運営に関わっていますが、新しい企画を提案すると、さまざまな協力や支援をしてくださる方が多いなぁと感じていました。
多様性を受け入れるまちづくりの考え方が、町のみなさんに浸透しているからなのだと、この本を通じて改めて理解しました。
地方移住を検討されている方や、空き家の活用、地域で何か新しい取り組みをしたいと考えている方は、ぜひ手にとっていただければと思います。